Disaggregationが巻き起こしたネットワーク業界再編についての考察
ここ1年で、ネットワーク業界のビジネスモデルが急速に変わりつつあるのを感じます。特に今月は動きが激しかったので記録のために私の分析(妄想)経過を文章にしてまとめておくことにします。
AT&T, VerisonがSDN/NFVに軸足を移す
AT&TがDomain2.0を発表したのに続いて、Verizonも正式に White Boxによるネットワークのソフトウェア化やNFV化を公式に認めました。それに時期を合わせる形でメキシコの携帯事業者の買収と15%の設備投資削減を発表しています。
噂情報をつなぎ合わせて考察すると、以下のような状況が想像されます。
- Juniperはホワイトボックス推進派(Contrail擁護?)と既存ビジネス推進派(ハードウェアビジネス擁護)の二つがせめぎ合っていた
- Verizon(Juniperの大口顧客)から、今後のネットワーク設計について White Box を前提にすることの通告を受ける
- 前CEOは既存ビジネス推進派だったが、既存ビジネスを守りきることに失敗したため解任された
- (予想)今後はホワイトボックス推進派が会社の運営権を握り、Juniperはソフトウェアを主体としたビジネスに大きく舵を切る
既にクラウドの主要ベンダはネットワーク機器の Disaggregation を実施済み
AWS, Google, Facebook などの主要なクラウドベンダが発信している情報を読み解くと、各社は既存のネットワークベンダの機器を使うことがサービスの阻害要因になっていることを以前から認識していてハードウェアとソフトウェアの分離(Disaggregation)を進めていたことが分かります。
阻害要因のポイントとしては、
- 膨大なEast-Westトラフィックを処理するためには従来のNorth-South重視の設計では不可能で over-subscription freeで通信ができるだけの帯域が必要
- over-subscription freeを前提にすると、既存ベンダの機器ではコストが合わない。既存ベンダのネットワーク機器は、長らくMooreの法則に従わず、値段も高止まりしていた
- 既存ベンダの強みと言われてきた巨大なシャーシ型のネットワーク機器を導入すると、機器障害時の停止リスクが上昇してしまう。クラウドネイティブのアプリは分散環境が前提で動作するとはいえ、一度に沢山のノードが停止するリスクは大きすぎるためネットワーク設計として巨大シャーシを使うのは不適切
- 既存ベンダのネットワーク機器は、ソフトウェアによる自動化への対応が殆ど進まず、長らくサイロ化を引き起こしていた。また、中身がブラックボックスであることで発生する障害対応コストの上昇もクラウド事業者にとっては欠点となる。このような状況はソフトウェアエンジニアの矜持である「あらゆるものをソフトウェアで自動化する」に反しており、AWS, GoogleやFacebookなどイノベーションを最大の価値と理解している企業には受け入れがたいものになる
主要クラウド事業者が用いた解決策は、以下のような感じです。
- Introducing data center fabric, the next-generation Facebook data center network - Facebook Code
- (SPOT301) AWS Innovation at Scale | AWS re:Invent 2014
- Google Cloud Platform Blog: Enter the Andromeda zone - Google Cloud Platform’s latest networking stack
- MicrosoftやFacebookは、既に BGP LSDC構成による IP Fabricを導入して膨大なEast-Westトラフィックに耐える運用を実現している
- マルチテナントを構成する場合のネットワークアーキテクチャは MAC-in-IP 的な overlay が既にAWSなど主要クラウド事業者では採用されている。overlayは転送性能(オーバーヘッド)の点では課題があるものの、安定して運用できることやスケールアウトできる利点があるため現時点で選択できる最良のアーキテクチャと考えられる
- 巨大シャーシを使わずボックス型のスイッチを使う場合の欠点は管理するべきノード数の上昇により運用コストが上がることだが、ネットワーク機器をサーバとまったく同じ仕掛け(chef, puppet, ansible等)やトポロジ管理の仕組みをソフトウェアとして作り込むことで管理コストを大幅に削減できる
既存ハードウェアベンダの今後の商売について考える
主要クラウド事業者はハードウェアの調達方法をODMに切り替え済みのため、既存ネットワーク機器ベンダにとってはクラウド事業者が主要な収益源になる可能性は低くなると予想されます。そうなると、既存ベンダは必然的に企業向けの商売にシフトせざるを得ないですが、こちらについても新規開発についてはクラウドに巻き取られていくことが予想されます。
サーバの世界で起こった出来事(IBMのx86サーバ事業撤退やHP分社化など)のアナロジーをネットワーク業界に当てはめると、既存ネットワーク機器ベンダが生き残るためには分社化してソフトウェア事業を主体としたOSSのサポートサービスやライセンスサービスに移行する必要があるのかもしれません。